あなたの知らないOC(ピル)の世界♪

薬理学から見たピルの種類

日本で厚生労働省から承認されている主なOC(Oral Contraceptive:経口避妊薬、通称「ピル」) をまとめました。たくさんありますね~、自分で表にしてみて改めて驚きました(^^;)。
この表をどのように見るかですが、

基本

ピルは女性ホルモン(卵巣から周期的に分泌されるエストロゲン)と黄体ホルモン(排卵後に卵巣から分泌されるプロゲステロン)が配合されたお薬です。これを毎日飲むと排卵が止まるというのは、今から見ても凄い発見だったと思います。妊娠を自由にコントロールしたいという人類の夢がかなった瞬間でした。

女性ホルモンの含有量

女性ホルモンの含有量で、中用量(50以上)→低用量(30以上50未満)→超低用量ピル(30未満)と進化してきました。欧米では、血栓症が問題になったことから、女性ホルモンは一貫して低用量化の道を進んだと言えます。

黄体ホルモンの種類

開発された順番に、第一世代(ノルエチステロン)→第二世代(レボノルゲストレル)→第三世代(デソゲストレル)→第四世代(ドロスピレノン)となります。女性ホルモンを低用量化すると、子宮内膜を維持する働きが弱くなって不正出血しやすくなるため、これを補う働きをする黄体ホルモンの開発に世界の製薬会社がしのぎを削りました。どれだけ多くの研究者・現場の医者・患者さんがかかわったことでしょう。みなさん、本当にご苦労様です!

分類 薬品名 会社名 女性ホルモン 含有量(μg) 黄体ホルモン 含有量(mg) 黄体ホルモンの世代
中用量ピル ソフィアC あすか製薬 メストラノール
(Mestranol)
100 ノルエチステロン
(Norethisterone)
2 第一世代
ソフィアA 50 1
ルテジオン クロルマジノン酢酸エステル 2
プラノバール エチニルエストラジオール
(Ethinylestradiol)
ノルゲストレル
(Norgestrel)
0.5 第二世代
エデュレン ファイザー 酢酸エチノジオール 1
低用量ピル シンフェーズ 科研製薬 第1相 35 ノルエチステロン
Norethisterone
第1相 0.5 第一世代
第2相 第2相 1
第3相 第3相 0.5
トリキュラー バイエル薬品 第1相 30 レボノルゲストレル
(Levonorgestrel)
第1相 0.05 第二世代
アンジュ あすか製薬 第2相 40 第2相 0.075
ラべルフィーユ 富士製薬 第3相 30 第3相 0.125
マーベロン MSD 30 デソゲストレル
Desogestrel
0.15 第三世代
ファボワール 富士製薬
低用量ピル
(月経困難症治療薬)
フリウェルLD 持田製薬 35 ノルエチステロン
(Norethisterone)
1 第一世代
ルナベルLD 日本新薬
超低用量ピル
(月経困難症治療薬)
ルナベルULD 日本新薬 20
ジェミーナ あすか製薬 レボノルゲストレル
(Levonorgestrel)
0.09 第二世代
ヤーズ バイエル薬品 ドロスピレノン
(Drospirenone)
3 第四世代
ヤーズフレックス

社会の移り変わりから見たピルの変遷

基本

ピルは望まない妊娠を予防するための「避妊薬」です。健康な女性が使うものですが、実際に使ってみると、生理痛を軽減したり・生理の出血量を減らして貧血を改善したり・生理不順の改善にもなりました。

婦人科疾患の治療薬として保険適応へ

1999年に自由診療の避妊薬としてスタートした低用量ピルも、効果や安全性が確認されるとともに、名目を「月経困難症治療薬」として保険薬に採用されるピルが増えました。2010年に登場したヤーズは、第四世代の超低用量ピルですが、最初から保険薬としてデビューしています。以後、続々と保険薬が追加され、低用量ピル・超低用量ピルが日本でも普及するようになりました。むかし日本の学校では「純潔教育」(今や死語になりましたが・・・)を基本としていたため、なかなかピルが認められませんでしたが、1999年に低用量ピルが認可された後は、世界の潮流に合わせるよう大きく流れが変わったと言えます。

(付記)宮川クリニックでは、フリウェル・ルナベルULD・ジェミーナ21&28・ヤーズ・ヤーズフレックスの処方が可能です。

分類 薬品名 薬の画像 概要 会社名 女性ホルモン
含有量
(μg)
黄体ホルモン 含有量
(mg)
黄体ホルモン
の世代
1錠当り
薬価
1シート当り
薬価
低用量ピル ルナベルLD オーソMと同じ 日本新薬 35 ノルエチステロン 1 第一世代 251.6 5,283.6
フリウェルLD 持田製薬 150.2 3,154.2
超低用量ピル
月経困難症治療薬
ルナベルULD オーソMを
超低用量ピル化
日本新薬 20 314.1 6,596.1
ジェミーナ21 ホルモン錠
21錠タイプ
休薬7日
あすか製薬 レボノルゲストレル 0.09 第二世代 314.1 6,596.1
ジェミーナ28 ホルモン錠
28錠タイプ
最長77日間の
(28+28+21)の
連続服用可能
休薬7日
314.1 8,794.8
ヤーズ ホルモン錠24錠
偽薬4錠
バイエル
薬品
ドロスピレノン 3 第四世代 245.7 6,879.6
超低用量ピル
月経困難症治療薬
子宮内膜症治療薬
ヤーズフレックス ホルモン錠28錠
最長120日間の
連続服用可能
休薬4日
275 7,700

世界のピルの動向

1995年にパソコンのOSにWindows95が登場し、インターネットの時代が始まりました。世界中の物・人・情報が、国境をやすやすと越えて来るようになり、製薬業界も買収・合併を繰り返してメガファーマ(グローバルに製造・販売を展開する巨大世界企業)の時代に突入しました。今やファイザー(世界第2位)、MSD(世界第4位)など、ピルのメーカーにもそうそうたる顔ぶれが並びます。ところがピルに限らず日本で流通するお薬が、実際には日本製ではなく、海外からの輸入品が多くなったことを知る人は、意外に少ないかもしれません。

世界で流通するピル

世界で流通している主なピルをまとめてみました。たくさんありますね~、 実際にはこの表よりもさらに多くのピルがあります(^^;) 改めて世界は広い!と感じます。

数字の意味は?

ピルの名前の最後の数字は、エチニルエストラジオールの含有量(μg)です。名乗るところを見ると、それだけ女性ホルモンの含有量が低いことを強調したいのだと思います。

EDの意味は?

ED(Erectile Dysfunction:勃起不全)?なんか変だ!・・・と思い調べたところ、ED(Every Day Use:毎日使う)の略でした(^0^)。

分類 薬品名 会社名 女性ホルモン 含有量(μg) 黄体ホルモン 含有量(mg) 黄体ホルモンの世代
中用量ピル Microgynon 50 バイエル薬品 エチニルエストラジオール 50 レボノルゲストレル 0.125 第二世代
低用量ピル Diane 35 ED バイエル薬品 35 酢酸シプロテロン 2
Brevinor ファイザー ノルエチステロン 0.5 第一世代
Brevino-1 1
Norimin 0.5
Levlen ED バイエル薬品 30 レボノルゲストレル 0.15 第二世代
Microgynon 30
Monofeme ファイザー
Ava 30 テバ
Marvelon
MSD デソゲストレル 0.15 第三世代
Yasmin バイエル薬品 ドロスピレノン 3 第四世代
超低用量ピル Ava 20 テバ 20 レボノルゲストレル 0.1 第二世代
Microgynon 20 バイエル薬品
Loette ファイザー
Mercilon MSD デソゲストレル 0.15 第三世代
Yaz バイエル薬品 ドロスピレノン 3 第四世代

これからの時代は?

個人輸入

ネットを見ると、今や個人輸入のサイトが花盛りです。世界中に、これだけピルがある訳ですから、日本で手に入らないピルを海外留学などの際に手に入れて日本に持ち帰ったり、自分も個人輸入してみようと考える女性が出ても何ら不思議ではありません。実際、当院の外来でも個人輸入でピルを入手している女性が少なからずありました。その真贋(しんがん・本物かにせものか?)は不明ですが、海外からお薬を取り寄せて医師の責任のもと、患者さんに処方している医療機関も徐々に増えてきました。日本では、緊急時や日本で手に入らないお薬の輸入は認められているので、個人輸入=すべて悪というわけではありません。

新しいルール

当然のことながら、医師は自分が処方したお薬には責任を持ちますが、自分が処方していないお薬に責任はありません。ボランティアのメール相談でも、個人輸入=自己責任ですから、原則としてコメントは控えるようにしています。個人輸入で、お薬は手に入りますが、相談に乗ってくれる医師は手に入りません。医師にとっては、リスクを負うだけで何のメリットもないからです。2018年7月から、低用量ピルの安定供給を図るために、初めてお薬の緊急輸入に踏み切りましたが、海外から届いたお薬の説明書には、色々なトラブルが起きた場合に、tell your doctor, ask your doctor と記載されており、海外でも医師・薬剤師の管理のもとに薬を使用することが大前提となってお薬が流通していることを再認識しました。患者さんから見れば、海外で広く使われているお薬を自分も使ってみたいと思うのは当然ですが、何かあった時にどうするか?誰が責任をとるか?には、新しいルールが必要です。
結論として、当院で輸入し院長が処方したお薬には、院長が責任を持ちます。お気づきの点や、相談したいことがあれば遠慮なく電子メールをお送りください。

問題点

今までお薬は、100%日本の製薬会社→薬問屋→医療機関という流れでしたが、貿易会社を介して海外から直接お薬が入ってくることになります。日本の製薬会社・薬問屋から見ると売り上げが落ちる可能性があり、厚生労働省から見ると臨床試験や薬の承認過程をブッとばして薬が日本に入ってくることになります。ただし、すでにお薬の多くが海外製なので、薬問屋さんに薬代を支払っても、貿易会社に薬代を支払ってもお金が海外の製薬会社に流れるのは同じです。海外の製薬会社から見ると日本での臨床試験や薬の承認過程をすり抜けてお薬が販売できるので、時間とコストの節約につながりますし、お薬を必要とする患者さんにとっても日本で手に入らない海外の薬を使えるメリットは少なくありません。個人輸入の解禁そのものが、海外の巨大製薬企業のグローバル戦略にのせられたとも言えますが、これが嫌なら個人輸入を禁止すべきです。ただし、あともどりはおそらく無理でしょう・・・。お薬の安定供給は、日本国民の命にかかわる問題だからです。おりしも、日本とEUはEPA協定(経済連携協定)を結びましたし、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)もアメリカ抜きで批准されました。発想を変えて、メガファーマに挑戦する日本企業も登場しています。iPS細胞など再生医療や創薬で、日本発の画期的なお薬が世界中に広がるのも夢物語ではないかもしれません。

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